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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.41)

 ITRONプロジェクトは夏になると1年の総括を含めてITRONオープンセミナーと呼ぶ研究開発の動向や応用の紹介、初めてITRONを使う人のための入門講座的内容を含むセミナーを開催している。今年で第6回目になったがセミナーの参加人員は年々増えており、今回は満席となってしまった。

 ところで米国のElectronic Engineering Times 8月5日号は三菱電機が発表したインターネットテレビを取り上げていてそのブラウザはμITRONを利用していると伝えている。正直言ってこの話はまったく知らなかった。まさにITRONは知らない間にユーザーが増えているというのが適切である。なぜかというと完全なオープンアーキテクチャだからである。外部仕様をまず作りそれをもとに複数のインプリメンタが実装して世に広めていく。外部仕様は公開されておりその利用は完全なフリーで誰が使ってもかまわない。だからどこで使われているかこちらが知る由もないわけだ。外部仕様に重きを置いているのは、入門のしやすさやプログラムやデータの交換のために最低基準を設ける必要があるからだ。また仕様を作る組織が直接ビジネスをしないというのも重要だ。仕様を作った側も実装は行い、ソースも公開されているがあくまでも研究開発のためのリファレンスとしてである。 振り返ってみればコンピュータの歴史では公的な標準が採用されたというよりも、ビジネス競争に打ち勝ったメーカーの製品の仕様がデファクトスタンダード、業界標準として認められるというのがほとんどであった。TRONプロジェクトはそのアンチテーゼとして、まどろっこしくてもまず仕様ありきの立場をとって標準化を行っている。このアプローチはITRONでは成功しており、ほぼ日本で手に入るマイクロプロセッサのほとんどにITRONが実装されており、その結果アーキテクチャ独立なOSになっている。これは組込みリアルタイム用システム用のマイクロプロセッサが、パソコンのように8割以上がインテル/マイクロソフトという独占状態でなく多種多様なアーキテクチャが併存しているために成功したといえよう。

 本号の特集はITRONである。オープンセミナーの内容をできるだけ伝えるために多くのページを割いた。最近のITRONが自動車など民生用の組込み応用に広がりを見せていることを知っていただきたい。また私の講演にもあるように、PDAやモバイルコンピュータ関係でもITRONを核としてHMI(Human Machine Interface)を持たせたμBTRONが今注目されている。今年末あたりには何社か開発している中の一番乗りが出てきそうになっている。そのような動きがあるということは本誌でも前号あたりから触れているが、手にとってみられるものが思ったよりも早く登場しそうである。本号でもまだ予告の予告程度ではあるが次号では具体的にご紹介できるのではないかと思う。

 今年もトロン週間(トロンウィーク)の日程が決定し12月4日から7日となった。この期間中にTRONSHOW'96、第13回トロンプロジェクト国際シンポジウム、TEPS'96が続けて開かれる。トロンプロジェクト国際シンポジウムはIEEE Computer SocietyとIn Cooperationするようになって6回を数えたが、一般の方は敷居が高い学術会議という印象を持たれていると思う。今年はそれを大幅に改定して多くの人が参加できるように工夫している。ぜひご参加いただいてTRONプロジェクトの具体的成果を見ていただきたい。

坂村 健