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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.42)

 TRONプロジェクト12年目の1996年を終えるにあたって、今年は特にプロジェクト第2期目というべき次のステージが動き始めた年であったと言える。最近著した本の中でも強調しているが、ここのところコンピュータ界何かおかしい。そのひとつは、今後のコンピュータ環境が分散指向、ネットワーク指向であるにもかかわらず、個人が使うパーソナルコンピュータがあまりにも肥大化していることだ。最近のWindows95を見てもわかるように、パソコンがワークステーションと見まがうばかりの肥大化を進め、動作環境はメモリ16Mバイトでは不足、できれば32Mバイト、ディスクも最低100M バイトは必要で1Gバイトディスクがすぐいっぱいになってしまうというのは、いったいどういうわけだ。当然スイッチを入れてからオペレーティングシステムが起動するまで非常に時間がかかることになる。一説によると電源スイッチ入れて立ち上がるまでに95秒かかるからWindows95という冗談があるくらいである。ましてやPentiumの150MHzだ200MHzといった、ひと昔前のスーパーコンピュータに匹敵するマイクロプロセッサを使わないとまともに動かないということ自体が異常だ。パーソナルコンピュータはもっとパーソナルであるべきで、小さくてコンパクト、容易に持ち運びができるものだ。このようにずっと主張し続けてきた。

 ところでTRONプロジェクト、ひとつの成果として今年はセイコーインスツルメンツ株式会社とパーソナルメディアが共同開発したイントラネット向け携帯情報端末BrainPad TiPOを世に送り出すことができた。これは単3乾電池2本で50時間動き、BTRON3仕様のオペレーティングシステムがマイクロカーネル方式で実現され、まさにBTRONマシンが手のひらの上に乗るようになった。どうしてこのようなものができたかと言えば、BTRON OS自体が軽くPDA(Personal Digital Assistant)のような応用に合っていることの証明にほかならない。またインターネット時代においてはあらゆる国の人びとが情報の交換をスムーズに行えることが非常に大事だが、我々は今多国語処理プロジェクトを進めており多字種を使う――具体的に言えば漢字を使う――人びとも困らないアーキテクチャを徹底的に追及している。中国との共同プロジェクトでは東方OSという、漢字を使う東洋人のためのOSが必要であることで合意している。中国のCS&S(中国計算機軟件与技術服務総公司)と共同開発についての調印もすみ、計画は着実に進んでいる。東京大学では10万字の漢字が使える新しいBTRONのインプリメントを目指して、フォントまで作ることを覚悟して、徹底し漢字の登録、コード化作業を進めており、一歩一歩着実に進んでいる。BTRONだけでなくすでにデファクトスタンダードになっているITRON、CTRONもさらなる普及が見込まれている。1996年にTRONプロジェクトは一歩前進できたということを宣言して新しい年を迎えたいと思う。

坂村 健