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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.52)

 このところいろいろな学会やシンポジウムに積極的に参加している。まず学術会議シンポジウム「ヒューマンインタフェースの未来」。日本学術会議の講堂に300人以上の人々が詰めかけ、この種の研究会としては大規模なものとなった。

 内容は、バーチャルリアリティから実世界指向インタフェース、そしてユーザー工学と多岐にわたるものであったが、発表される先端的な話題と多くの人が毎日利用しているパソコンの使いにくさの間に大きなギャップを感じた。今のパソコンで“いい”と思っている人は少なく、使いにくい人や使えない人は少なくない。もちろん研究も多々行われているが、実際にフィードバックがかけられないもどかしさ。

 21世紀は目の前に迫っており電子商取引をはじめとしてあらゆる社会活動の電子化が進む。その基盤技術としてのいわば道路のようなコンピュータは欠かせないと改めて思った。あらゆる人がコンピュータを使う社会ではイネーブルウェアのような障害者/高齢者対応機能もコンピュータの基本機能として必須項目であり、ヒューマンエラーが起きないようなインタフェースもぜひ欲しい。ミスが起これば直ちに社会的な重大事故につながっていく。これが社会インフラというものである。

 さらにインターネット上でのフォーマルな文書の交換もあたりまえになり、社会基盤としての文字コード問題がよりクローズアップされよう。文字コードについてはいろいろな意見はあるが、基本的態度として「変更すると経済負担がかかる」などの理由で現状維持を望む方向と「21世紀に向けて変革を指向」する方向ではまったくかみ合わず水と油のようになる。

 漢字の問題については最近東京大学文学部の田村毅先生を中心として64000字の漢字フォント「GT明朝」の発表が行われた。これは同日のNHKニュースなどでも報道された。Windows98の日本発売ニュースと同日になったのがなんともではある。GT明朝を監修しておられる山口明穂先生の画数が重要であるという考え方は明快で納得できる。研究者として原器となる漢字フォントを提供するので、書体のデザインはいろいろの人がやればいいというGT明朝=漢字フォントの標準原器論もわかりやすい。

 発表会でもフォント制作会社の人々がGT明朝に歓迎の意向を示され、これをもとに新しいデザイン書体を製作したいということであり、自由度が高まる傾向は漢字コミュニケーションを主とする我が国にとって歓迎すべきことである。B-right/VはGT明朝をサポートするシステムの原型であり、GT明朝の正式フォントが発表された段階で漢字64000字がサポートされることになる。

 B-right/Vは32ビットアーキテクチャとなり、またTCP/IPネットワーク対応が標準となった。秋から年末にかけて開発に加速をつけて、新しいBTRONの標準として広く使われることを望む次第である。

 ところで春には米国でIEEE CS PressからμITRON3.0の仕様書『μITRON3.0』が発行されたが、この種の仕様書としては異例の部数が売れている。米国においても確実にTRONに対して関心が高まっている証拠で、TRONプロジェクト当初からの主張への賛同は増えている。この傾向は最近の電子化社会を取り巻く種々の状況から、今後いっそう強まるであろう。

坂村 健