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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.58)

 最近、TRONプロジェクトの重要な応用のひとつとして、知識をどうストックして、分類し、ディストリビュートするかにたいへん興味を持っている。デジタルミュージアムという新しいコンセプトを打ち立て、世界に展開しているが、デジタルミュージアムとは言わないまでも、今ミュージアムがおもしろい。大きく言えば人類が今までやってきたことを整理保存する場所。企業などの組織でも今までやってきたことを整理して、業績を展示するいわゆる企業博物館と呼ばれる目的を持った博物館が世界的に注目されている。企業が本社機構の一部にミュージアムを持たせることはよくあるが、カリフォルニア州サンタクララのインテル本社の入口横には一般に公開されている小さなミュージアムがある(マイクロプロセッサの展示に大きなスペ-スは合わない!)。 ここでは1968年の設立から歴史的にインテル社のやってきたことが社会とのつながりとともにわかりやすく展示されている。

 インテル社の歴史はまさにマイクロプロセッサの歴史そのものであり、科学技術ならびに産業史としてもなかなかのものである。シリコンバレーを訪れたら見る価値がある。マイクロプロセッサのサブミクロン単位の微細加工を表すために人間の髪の毛と比べてどれだけ細かいのかをうまく展示したり、クリーンルームはどんなものか、チップはどのように製造されるかなどを簡潔に知ることができる。インテルのように自分の会社の歴史がマイクロプロセッサの歴史になるような会社は珍しいとしても、シリコンバレーの主な会社が技術的なマイルストーンを展示して、ネットワーク化すれば、そのままコンピュータの歴史になるだろう。

 これは米国の技術の層の厚さを表しているが、サンディエゴには TheTechミュージアムというハイテク博物館がある。ここは全米の企業から製品やサービスの寄贈を募り、市の再開発公社も投資しているテクノロジーを中心としたミュージアム。特に教育に主眼が置かれており、テレコミュニケ-ションやコンピュータがどういう原理で動き、どのように社会に影響を与えているかがわかりやすく展示されている。見学ツアーで常に多くの小中学生が訪れている。我が国においても教育が重要と言われつつも、ハイテクミュージアム、例えば、The Techのような体験学習型教育機関は少ない。教育という、わかってはいるが、とらえどころのないものに対してのアプローチのひとつとしてもっと注目されてよい。さすが、米国を見ると組織を作って地道にやっている人が多く層の厚さがこういうところに出るのかと感じる。

 教育はカリキュラムをどうするかとか、それに従ってきちんと教えることはもちろん重要だが、若い人たちに親しみを持たせて興味を持たせる工夫も大事なのではないだろうか。テクノロジーを教えることに国家や企業が協力して取り組んでいる米国での数々の事例を見るに、我が国においてももう少し目先のことだけでなく、この分野――教育ということ――に全力をあげて取り組んでも良いのではないかと感じている。

坂村 健