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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.68)

実現可能なベストを、そして永きにわたって耐えうる仕様を

   ITRONはTRONプロジェクトのルーツである。 1980年代初頭、プロジェクト開始後にまずはじめに設計開発を行ったOSだからだ。ITRONの“I ”はIndustrialの“I ”――当時は主に工業的な応用のリアルタイムOSが要求されていたからである。機械の中に組み込まれて使われるマイコン用OSである。組込み用OSにとってマルチタスク/リアルタイム処理は必須であり、プログラムの生産性を上げるために、その当時でも標準的なリアルタイムOSが要求されていた。生産性を上げるため当時私が思ったのは、マルチタスクプログラミングについては理論的にはわかっていたので、奇をてらうのでなく、シンプルかつすっきりした仕様にしたいということであった。

 よく、新しいコンピュータはまったく新しい概念や機能が備わっているべきであると思い込んでいる人がいるが、ウェルデザイン(よくできたデザイン)とは新しければ良いというものではない。新旧さまざまのコンセプトを考慮に入れ、数々のトレードオフを勘案の上、実現可能なベストをねらったものだ。 そしてOSという基盤ソフトである以上、10年以上にわたり耐えられる仕様でなければならない。そしてITRONは誕生した。多くのITRONが作られたが 20年間のうちにはインプリメント方法では格段の進歩があったと思う。マイクロプロセッサ技術の進展も大きい。それでも携帯電話に入れるなど、コンパクトに作るのは大変だ。米国系のリアルタイムOSがミニコンピュータやワークステーションをターゲットとして機能を重視してたことで大きくなりがちだったので、こちらはマイクロプロセッサのためのコンパクトなOSであることを強く意識した。また当時から1チップマイクロコンピュータには興味があり、最終的には完全1チップの中にOS だけでなくアプリケーションも入れ1チップ化することがターゲットだった。リアルタイムOSなのだからタスクスイッチングも1μ秒を切ることを目標にしていた。

   このような点を実現可能なように仕様を追い込んで行くことに全力を尽くした。BTRON、CTRONなど他のOSの安定したカーネルになることもねらい目のひとつであり、実際現在のBTRONは ITRONをカーネルとしたマイクロカーネル方式で作られている。 ITRON自身も、さまざまなバージョンが開発されたが、1993年に公開したμITRON3.0でITRONが世界的に広まるきっかけを作った。仕様を当初のものよりシンプルにし、複雑な機構は除いた。コンパクトで覚えやすく、無償で利用でき、高速なために、民生機器に広く使われるようになり、世界で最も使われるOS へとつながっていった。現在μITRONは全世界で100社以上がインプリメントしている。米国で何社もがITRONを販売するようになり、応用も携帯電話やデジタルビデオ、そして自動車のエンジン制御に至るまで、ありとあらゆるところに使われている。本号は、このようなITRONの特集である。

坂村 健