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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.71)

ソフトウェア産業を押し上げる王道とは

 今、ITバブルの反動で、米国発の不況が世界を覆っている。米国のIT関係の企業では1兆円以上の損失を計上するところも出てきた。新興企業が上場する株式市場ナスダックの株価は2000年のピークから6割落ち込み、2兆ドルの投資が失われた。90年代後半にはインターネット関係のベンチャー企業が急成長し、上場する企業が相次いだが、短期間で破綻した。そして昨年の暮れには米国のコンピュータ大手や通信大手がついに不況に突入した。多くの大企業は、好況時に大規模な設備投資をしたり、大胆な企業買収を行ってきたので、景気の悪化により、企業の業績に直接響き、立ち行かなくなる企業も目立ってきている。

 このような巨大な期待と過剰な投資は日本の土地バブル投資の反動とそっくりである。しかし、ここで注意すべきはIT産業が決してこれで終わりというわけではないということだ。誕生した50年前から、コンピュータの利用は画期的効果を生むことがわかっていた。過去にコンピュータブームは何回も起きている。 過去のブームと今回の90年代のものの違いは、普通の人々を巻き込んだかどうかということだ。インターネットブームに見られるように ITは金になるという思い込みがあまりに激しかったことの反動(過剰期待)が今日の不況につながっている。が、不況・好況を繰り返しながらも長期的には IT産業は自動車産業のように、国を支える産業になることは間違いない。

 米国発のIT不況はたちまち日本にも及び、米国向けの輸出の多い我が国の電子・コンピュータ企業も大打撃を受け始めた。一流企業の赤字転落、大幅減益が相次いでいる。そこで製造業を見限って、システム構築の請負などサービス業に方向転換しようというIT企業も出てきた。しかしながら、今この不況で最も利益を上げているという企業といえば、製造業のトヨタである。モノ作りといってもいろいろあり、自動車はうまくいくのになぜITはダメなのか。

 自動車産業とIT産業の最も大きな違いは、使う部品にブラックボックスがあるかないかということである。例えばパソコンで言えばインテルのマイクロプロセッサにマイクロソフトのOSを組み合わせていたのでは、中身がわからず創意工夫やコスト低減のしようがない。他社にキーパーツを握られていたのでは、さらなる利益を上げるのは難しい。実は他のもので見てみても、最終製品については、大量生産、低価格を武器に台湾、韓国や中国の進出が目立つが、キーとなる技術はまだまだ健在である。韓国は、DRAMや液晶の生産で日本を抜き世界一になったが、部品や生産機械などはほとんどが日本からの輸入であるというのが当地で問題視されているぐらいだ。

 ところで、この不況で一番期待が大きいのは、ブロードバンド――いわゆる高速インターネットであろうが、一見ビジネスチャンスが大きそうに見えるが数年単位で見るとなかなかビジネスにならないと認識されつつある。米国では高速インターネットを提供するDSL専業通信業者大手3社がそろって倒産した。ケーブルTVインターネットも利益が出ず、先行きを危ぶまれている大手企業もある。高速のインターネットの中を通すコンテンツでビジネスになりそうなものも見つからない。日本よりも進んでいると言われる韓国のブロードバンド企業はどこも赤字に悩んでいる。これでは高速インターネットを日本中に引いてIT先端国家にし、経済回復をねらう政府の戦略はうまくいくのであろうか。高速インターネットを張り巡らせるのは8車線の高速道路を日本中に引くのと似て、利用者にとっては望ましいが、採算を無視して行えば、巨額の赤字が残る。それで経済活動が盛んになればよいが、その保証はない。

 それに比べてうまくいっているのは携帯電話。 iモードなど携帯電話によるインターネット接続が4200万台も使われて、モバイルでこれほどビジネスが盛況な国はほかにない。料金は決して安くなく、値下げが望まれるが、現在の料金でも広く利用されている。

 産業戦略を立てるなら、他の国のやり方に追随するのでなく、我が国の長所を活かし短所をカバーする独自モデルが必要である。そのようなモデルを見い出さないかぎり、我が国の黒字は減るばかりで、経済回復はとてもおぼつかないだろう。日本の企業はハードウェアはわりあい得意であるが、ソフトウェアは一般的に不得意だ。現場では中身のよくわからない出来合いのものを組み合わせることでしのぐところが多い。コンピュータサイエンスをマスターして独自開発できる人材がもともと極端に少なく、他の分野の人材に即席教育を行いソフトウェア人員とすることが多い。日本のIT企業はソフトウェアについては基礎がしっかりしておらず、地に足がついていない。

 米国でも出来合いのものを巧みに組み合わせてすませることが多いが、やろうと思えば良質の独自ソフトウェアを開発出来る人材はあり余るくらいいる。自社で独自ソフトウェアを開発するのは困難であるが、ソフトウェアの中身を公開して第三者とともに開発を進めるオープンソース方式もごくあたりまえとなった。我が国のソフトウェア産業に求められているのは、間に合わせでない、誰にでも中身のはっきりわかるオープンなソフトウェア開発である。TRONやLinuxやGNUなどの中身がオープンに公開されているソフトウェアプラットフォームを積極的に利用して、社会のインフラを築いていくことが、ソフトウェア産業を日本の製造業の水準に近づける上で遠いようでいて実は王道なのである。

坂村 健