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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.72)

T-Engineプロジェクトのスタートにあたって

 まもなくTRONSHOW2002が始まる。今回の展示では、新しい組込み用のオープンハードウェアプラットフォームT-Engineを皆様にお目にかけることができる。

 2001年の終わりに、TRONプロジェクトの新たな具体的展開であるT-Engineプロジェクトが正式に発足する。TRONプロジェクトの最初のサブプロジェクトITRONは、標準的なリアルタイムOSを開発するプロジェクトであり、関係各位の努力のおかげで、日本における標準的なリアルタイムOSとなることができた。その特徴として、「弱い標準」によりプロセッサを選ばず、あらゆるマイクロプロセッサに移植したことで、多くの賛同が得られ、大きな成果が得られた。反面、「弱い標準」はそれぞれのITRONの実装に微妙な違いを生じさせ、互換性のあるソフトウェア部品の流通はいまひとつであった。また開発環境が一元化できないとも言われていた。

 IT不況の中、製造業を応援するためにも、組込みソフトウェアの生産性をさらに高め、信頼性を上げることが今求められている。打開策は、開発する部分を減らすことである。どのプロセッサ上でも共通に使える信頼性のあるソフトウェア部品の流通を推し進めることが最も大事であると考える。

 特にカーネルとアプリケーションの間を結び持つミドルウェアを部品として流通を積極的に推し進める必要がある。ミドルウェアには、ネットワーク用プロトコルスタック、グラフィックス、ユーザーインタフェース、かな漢字変換、パワーマネジメント、各種関数ライブラリをはじめとしてさまざまなものが考えられる。これらの良質のソフトウェア部品が入手でき、それらを組み合わせ、アプリケーションの論理を書くだけですませられるようになれば、開発は迅速になり、システムの信頼性も高くなるだろう。

 そのためT-Engineプロジェクトが発足した。プロジェクトのベースプラットフォームがT-Engineだ。T-Engineボードは手帳サイズのハードウェアボードでCPUボードを中心として各種ドータボードが付く。とにかく小さい開発プラットフォーム。これを使い、完成後さらにLSI化を進め、もっと小さくするための標準ボードである。しかしあまりに小さいので、そのまま最終プロダクトとして使うことももちろんできる。物理的形状やCPUボードのI/Oコネクタの位置は標準化されている。また、共通に使われるUSBやシリアル、PCMCIAなどはサイズから部品の取付け位置まで決めるなど、踏み込んだ標準化を行っている。だが拡張コネクタのバスについては、さまざまな利用が考えられるために、あえて標準化していない。T-Monitorは、T-EngineのROM上に搭載されるモニタソフトウェア、T-Kernelは、T-Engine用のμITRONベースのリアルタイムカーネルであり、インターネット家電向け(Internet Appliance)向けの拡張がなされている。開発環境の充実にも力を入れる予定である。

 そしてもうひとつの特長が、セキュリティ重視のアーキテクチャ。今後は、あらゆる電子機器がネットにつながっていく時代であり、セキュリティの確保が重要となる。セキュアなネットワークの実現のために、前からeTRONプロジェクトを進めていることは、お伝えしているが、T-EngineにeTRONチップを標準で埋め込むことにより、ネットワークに接続したときに電子実体(電子的に権利を記したもの)を扱うことが可能になり、各種のセキュアな応用に利用できることになる。

 さらに、ITRONは今後、モバイル、ウェアラブル、ユビキタスに積極的に使われていく。そのためにも省エネルギー化をねらい、システムレベルのパワーマネージメントなど積極的に展開していくつもりである。TRONSHOW2002で初登場のT-Engineをぜひご覧いただきたい。

坂村 健