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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.83)

活発に活動するアジアから組込みシステムにさらなる貢献を

 シンガポールのNTU(Nanyang Technological University)のコンピュータ科学科ではCHiPES(Center for High Performance Embedded Systems)という組込みシステムに特化した研究所を1998年に設立しており、従来から組込みシステムに力を入れてきている。さらにここに今年7月、Embedded Systems専攻のマスター(修士)コースが開設され、8月23日に催されたそのオープニングセレモニーに私が主賓として呼ばれ、招待講演を行う機会に恵まれた。

 講演には非常に多くの人が興味を持ってくれた。T-Engineの解説や未来の組込みシステムに関しての話をしたが、たいへん評判が良く、日ごろ主張している「開発の効率化のためのミドルウェアの流通の拠点を目指している」、「ソフトウェアは100年使いたい」、「あらゆるシステムはネットワークにつながるので、eTRONのようなセキュアアーキテクチャが必須」などの主張には、多くの賛同が集まった。T-Engineフォーラムにもその場でシンガポールの会社が数社加入してくれるほどで、たいへん意義深い催しだった。

 非PC機器の需要が増えるにつれて組込みシステムに関する関心が世界的に高まっているが、アジアには組込み関係の研究所や開発拠点が多く、しかも、生産を合わせると世界一の地域となっている。そのため、シンガポールという地に組込み分野の新しい大学院コースを設けるのは非常に時機を得ていると思った。研究所のスタッフは28人の規模で、修士も含め学生は42人。ここではある特定システムを開発する場合のトータルなシステム構築手法を研究する。最新のECADシステムによるASICの開発手法から、ボードへの高密度実装、リアルタイムOSを載せ、応用ソフトウェアを作り、最終的にターゲット(目的)システムを作り上げるまでを一貫して研究する研究所である。その中にASICやリアルタイムOSなどを研究するグループもある。

 組込みシステムは日進月歩である。一般の情報処理、つまりEDPの世界のシステム開発はすでに定番のシステムとソフトウェアで決まりという状況だが、組込みは明らかに違う。組込みシステムのハードウェアはターゲットシステムにより大きく変わる。「このような用途だから、こういうシステムが必要で、そのためのターゲットハードウェアはこうなる」といった判断が必要となる。PCやUNIXなどの汎用的なプラットフォームにソフトを載せてシステムを実現する世界ではない。ハードばかりでなく、OSもソフトウェアもターゲットシステムに適応させないとならない。おそらく極限まで低消費電力を追求することが求められ、デバイスドライバが作りやすいかどうかも問題となる。これはPCやWSの世界とは明らかに違う。

 事実、組込み分野の活動の多くはやはり、アジアで活発に行われている。TRONプロジェクト/T-Engineプロジェクトは、従来から韓国や中国などと交流が活発であるが、アジアを重視した普及という方針を変えることなく進めていきたい。今回訪問したシンガポールはハブ拠点、すなわちいろいろな国に行きやすいところである。周辺にはこの分野の優秀な国が多数ある。ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト2003の結果(優勝・準優勝がともにタイ、敢闘賞にベトナムと日本)にも現れているように、ベトナムやタイはハードウェアに強く、マレーシア、インドネシアにも優秀な人々がたくさんいる。ちょっと行けばソフト開発に定評のあるインドもあり、中国も控えている。アジア地域は近い将来組込みシステムにおける貢献がさらに期待できる。そのようなアジアの中でアジアの人々と21世紀の組込みの世界を作っていけることを期待したい。

坂村 健