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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.84)

協調と競争による技術の発展を目指して

 MicrosoftがT-Engineフォーラムに加入するという発表が9月25日に行われたが、これほど大きな反響を呼ぶとは思ってもみなかった。インドにいる友人から電話がかかってきて「インドの新聞に大きく出ていてびっくりした」という。報道は世界的になされたようである。

 しかし反響の中にはいろいろ誤解もあったようだ。代表的な誤解は、「TRONがMicrosoftと組んでLinuxと対抗する」といったもの。日本ではなぜ、「AとBの対抗」といった構図になってしまうのだろうか。まったく理解に苦しむ。技術の進歩にとって競争は重要ではあるが、大ざっぱに勢力分けして、それらが陣営として結束して全面的に戦うといった見方は古いのではないだろうか。世の中は思った以上に複雑化しており、技術開発に関しては、組織との戦いがそのまま規格の戦いになるのでない。ある側面では競争し、別の側面では協調している。競争ならびに協調関係は細分化され、非常に複雑になっているのが現在の技術開発である。言うまでもなく我々はLinuxと戦っていない。本誌でも大きく取り上げたように、この3月には、組込み向けLinux最大手のMontaVista SoftwareがT-Engineフォーラムに入会し、両者が共同開発でT-Kernel上に同社の組込みLinuxを載せると発表している。このように共同開発する勢力となぜ対抗するのだろうか。

 最近の動向を見ると、あらゆる場面で時代が「ユビキタス」に向かって大きく動いていることを感じる。1990年代のパソコンとインターネットを中心とする情報システムの形態の普及が一巡して、ユビキタス・コンピューティングというまったく新しいモデルが、大きく立ち上がろうとしている。

また技術標準の作り方が大きく変わった。1980年代までは国家やISO(国際標準化機構)のような国際的な公的機関が標準を決めるDe jure(デジュール)方式、つまり公的標準が主流であった。De jure方式は、標準化に時間がかかり、標準になったときには古くなっていることがしばしばあった。進歩の早いITの分野では特にその遅れが問題となる。そこで1990年代には、市場で勝利を得た規格が標準になるというDe facto(デファクト)方式が大きな勢力となった。基本的にはDe jureよりはDe factoのほうが、良い標準になりやすいことは皆が認めるようになった。だが、De facto方式は市場が標準を決めるので市場を寡占/独占したものが標準を握ることになり、かえって技術の発展を阻害する場合もあるという問題点が出てきた。その反省から、ある分野に強い参入意志を持っている人たちが、どの部分を協調して、どこを競争するかを話し合うことで規格を作って行くフォーラム方式で規格を決めることが増えてきている。T-Engineフォーラムもこの流れに沿っている。

 また、全世界的に見て仕様が公開されたオープンアーキテクチャ方式が関心と話題を呼ぶようになり、21世紀はオープンアーキテクチャが、主流になることがはっきりとわかってきたと思う。現時点で MontaVista、Microsoftをはじめとして、世界の300社に近い企業がT-Engineフォーラムに参加するようになった。2004年もオープンアーキテクチャ方式の
T-Engine/T-Kernelはさらに発展する。期待に応えるべく、最大限の努力をし、世界のユビキタス・コンピューティングのためにT-Engineを成長させていきたい。今年度のTRONSHOW、多くのT-Engine関係のプロダクトが基礎ソフトウェアから応用製品に至るまで市場に送りだされていることをぜひご覧いただきたい。

坂村 健