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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.88)

神戸から始まる世界の社会基盤への貢献

 道路の中にICチップを埋め込み、さらに街灯や歩道橋やガードレール、さらに道路に存在するさまざまなものに電子マーカーを付けることにより、移動に関する有用な情報を受け取れる国家社会基盤を政府が構築する壮大なプロジェクト「自律的移動支援プロジェクト」がいよいよ始まった。

 このような基盤を作る目的は、第一に障害を持った人や高齢者を含むあらゆる人が適切な情報を受け取ることにより自律的に必要とする場所へ行ける自由を支援することだ。たとえば目の不自由な人にとっては、今までは道路表示を人の助けを借りずに知ることはできなかったわけだから、このようなインフラにより道路表示板から情報がデジタル信号に乗って携帯端末に送られれば、自律移動に対して大きな助けになる。

 しかしたとえば、まったく知らないところに行ってしまったら、障害者に限らず、健常者であってもこのような「場所」が必要な情報を発信するしくみは有用で、誰にとっても役に立つ。

 実現のためには基盤となる機器を敷設する必要がある。といってもあらゆる設備を国だけの力で整備することは困難である。そのためにシステムのアーキテクチャをオープンにして、国道をはじめとする公共的道路や国の建物についての情報発信装置は国が敷設するにしても、その他はやりたければ誰でも「場所」への情報の付与ができるようにする、という考え方が大事だと思っている。

 たとえば、デパートに発信装置を付けることで、ユビキタス・コミュニケータを持っている人に対して、客の購買につながる情報を送ることができるとすれば、設備が大して高額でなければ、デパートは自分のコスト負担で設備を敷設するだろう。 だからこそ、このような社会インフラを普及させる場合に特定の目的しか使えない設計は望ましくなく、国家のものでもオープンにすることにより、皆が多様な目的に使えるようにすることが大事だ。基盤の構築によりユニバーサルデザインとして、障害者だけでなく健常者にも役に立ち、目的もまた移動支援だけでなく、観光ガイドにもなり、緊急の場合の避難経路誘導にも使えるというように多目的に使えるようになる。駅では、電車が遅延したとき、最新状況はどうで次の電車はあとどれくらいで来るのか、振替輸送の状況はどうなっているかなどを流せば、駅の利用者は自分の移動計画をすばやく修正できる。また、バスはいつ来るのか、遅れているのか、乗り継ぎの情報など交通機関同士の連動に関する情報も入れば、利便性は増す。

 このような「場所」に関する基盤システムと、食品や薬品をはじめとする「モノ」のユビキタス・コンピューティングシステムとを連動させれば、あるモノがどの場所で生産されたのかどこから来たのかなど、トレーサビリティのための情報を自動記録することができ、ユビキタス・コンピューティング環境はさらに充実したものになっていく。

 このような試みを、プレ実験を今年神戸で行うことをはじめとして、来年には同地で大規模な実証実験を行い、技術標準を確立して、10年のうちにはこの考え方を全国に広めていく。そしてさらには世界にもその技術を発信していく。そういう壮大なプロジェクトが始まったわけである。このような基盤システムを世界に先駆けて作り上げ、いち早く世界に公開することにより、全世界の社会基盤へ大きな貢献ができると信じている。

 T-Engineフォーラムはおかげさまで設立から2年が経過し、7月現在、全世界420社が参加するという組込み機器開発とユビキタス・コンピューティング関係の一大フォーラムになってきた。また我々はこれからも、この自律的移動支援プロジェクトをはじめとして幅広くオープンアーキテクチャに基づくインフラの構築を進めていく。ちょうど2年経過したため本号ではT-Engineフォーラムを特集した。非常に進展の速い私たちの活動に今後も注目していただきたい。

坂村 健