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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.91)

TRONでアジアが力を合わせて世界貢献を

 これを書いているのは12月25日だが、ちょうどベトナムから帰って来たところだ。12月のはじめに開催された恒例のTRONプロジェクトの集大成であるTRONSHOW2005は大成功裏に終わったが席を暖めるまもなく、すぐさまタイ、ベトナムに出かけ、近くアジア地区のセンターにする予定のある拠点で講演を行ってきた。タイではNECTEC(National Electronics and Computer Technology Center)という600人規模の国立のコンピュータ/IT関係の研究所に行ってきた。すでにここが中心となってT-Engineの研究開発センターを作る計画が進んでおり、NECTECで開発したRFIDのリーダ/ライタとT-Engineをつなぐプログラムが開発され動いていた。また、タイの王国科学技術大臣、Korn Thapparansi氏にお会いすることができて、私たちのユビキタス・コンピューティングをはじめとする組込みシステムのアジアからの情報発信についてご理解をいただき「タイ政府としても力強くバックアップをしたい」というお話をいただいた。NECTEC主催のシンポジウムで講演を行ったが、400人以上の大学関係者や政府研究機関の関係者が集まり、理解も深く、非常に大きな関心を呼んでいた。タイも力強くT-Engineを利用して仕事をしていくことで盛り上がった1日であった。

 一方、ベトナムでは、ハノイ工科大学とホーチミン市工科大学の両方を訪れた。ベトナム一、二を争う工科系の大学であり、そこを中心としてセンターを作ろうという構想が進んでいる。学生の意欲は十分高く、TRONを使って組込みシステムという新しい分野に参入することに非常に高い意欲を持っていた。特に、ホーチミン市工科大学では、私たちのT-Engineフォーラムにホーチミン市工科大学がアカデミック会員として入会することも決まっており、数十台のT-Engineが到着し、活動が始まろうとしているときだった。また両大学で講義を行ったが、北でも南でも講義後の質疑応答で1時間以上かかったほど熱心であり、こちらもうれしい状況だった。

 また、TRONSHOW2005の会期中にはタスマニア政府とMOU(覚書)の調印を行っており、アジア・大平洋地区における TRONに関する関心の度合いは、たいへん高まっている。今回のTRONSHOWでは初めてアジアパビリオンを設けたが、次回はこの規模が3倍に増えるのではないかという期待がある。今、アジアには世界の組込みシステム関係の工場が集中している地域であり、生産から開発、設計へ移行するのが、自然な流れであり、私の考えでは人材育成を含めて、組込み関係のハードウェアからソフトウェアまで一連の流れの中でT-Engineが有力な働きをすると信じている。組込みシステム開発拠点のグローバル化の構想もいっそう加速度が増しており、大きな進展を見せた1年であった。

 またTROHSHOW2005前日に総務省が主催した日中韓ユビキタス・コンピュータ会議(電子タグ/センサネットワークSWG初会合)に招かれ、キーノートスピーチで各国政府関係者に訴えたが、要は「基盤技術に相当する標準案がどれだけアジアから出せるかが重要なのであって、今までの日本がやってきたような、勝ち馬に乗ったり、世界で標準を勝ち得たものをうまく利用するという考えが古く、21世紀的でない」ことを皆で確認し合い、今後、私たちも積極的に頑張るが「アジアも力を合わせて世界標準に対して貢献をするという立場でものを進めていこう」という非常に前向きな結論に達した。非常に望ましい姿だと思う。

 何回も言ってきたように、日本は戦後追い付き追い越せ政策により、欧米の技術をいち早く吸収することに力を注いできた。今でも米国の力がNo.1であることに変わりはないが、私たちも努力して、世界に対しても米国に対しても貢献するというのがTRONの基本的考え方である。2005年もこの路線を進めて、世界貢献ができるTRONプロジェクトとして、努力を進める所存である。

坂村 健