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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.92)

FPGAで業界標準にまた一歩

 FPGA(Field Programmable Gate Array:現場でプログラム可能なゲートアレイ)は、半導体デバイスの一種であるPLD(Programmable Logic Device:プログラム可能なハードウェア論理素子)に属するが、PLDには30年以上の歴史がある。1970年代半ば、私は解こうとする問題に合わせてコンピュータの構造を変えていく可変構造計算機を研究していた。構造を変える手法として、マイクロプログラミング方式のコンピュータを用いて問題に合わせて命令セットを変更させていた。そこに第一世代のPLDであるPLA(Programmable Logic Array)が提唱され、原始的ではあったが製品も現れ始めた。問題に適応して論理回路がダイナミックに変わっていく構造可変型コンピュータが実現できれば、まさに夢のマシンとなるのでマイクロプログラミングをもう一歩進める技術としてPLAにはたいへん注目していた。しかしPLAは原理的には非常がおもしろかったが、実現できるのはANDとORの単純な組み合わせで、半導体の集積度が低く、実装技術も未熟だったので、実際には大したことはできなかった。当時はヒューズを切ってプログラムする製品しかなかったので、1回しかプログラムできず、ダイナミックに変更することはできなかった。動的に変更できるDLA(Dynamic Logic Array)を提唱したが、当時は実現技術が追いつかなかった。

 それからかなり時間がたち、1980年代半ばにFPGAが現れた。これは、論理ブロックを多数縦横に並べ、内蔵のSRAMにより配線をプログラムして、任意のハードウェア論理回路をダイナミックに実現できるようにしたデバイスだ。現在は数百万ゲートの論理を実現できる製品も現れている。この30年の進歩はまったくすごい。コンピュータを設計しようとすると1970年代初めには論理回路はTIのTTL ICで組む以外になく、少したって6701や2901に代表されるビットスライスマイクロプロセッサが現れて、演算器やシーケンサの実現等はだいぶ簡単になったが、自由度は限られていた。それが今やFPGAを使って自分だけの32ビットCPUを開発することができる。研究や学校での実習には最適だ。製品開発においてもボード何枚にもあたる規模のシステムが1チップに納まってしまう。システム・オン・チップのシステムを開発したり、汎用CPUの周辺にASICを配置したシステムを開発する上でもまずFPGAを使って試作機を作る。さらにコストが低下してきたので、数年前からは試作機でなく、実際の製品にFPGAを組み込んでおいて、バグが出たり、新しい機能を追加する場合に、後からダウンロードしてハードを修正するというようなことも珍しくなくなった。

 ところT-Engineで組込みシステムを実際に開発する場合、ハードとソフトを一体に開発しなければならないという思想のもとに、汎用マイクロプロセッサの部分とユーザー定義のハードウェアロジック部分をT-Engineでつながるような拡張ボードを作っておいて、ハードとソフトの同時開発を行って、バクがとれた完成品を1チップにする手法を前から提唱してきた。これを実際にやろうとすると、T-EngineではCPUボードはSH、ARM、MIPSなど組込み向けが一応そろったが、ハードウェアロジックつまりFPGA側とのインタフェースをどうするかという問題があった。そこで昨年、いち早く大手のAlteraに参入してもらって、チップ固有のバスにつながる定義部分まで公開していただいた。これによりユーザーが開発したハードウェアロジック部をそのままにして、CPUを変えても定義したロジックをそのまま使えるしくみを作った。Altera社には大いに感謝しているが、今年になってPLD業界最大手のXilinxも同様のしくみに加わっていただくことになった。2月21日に日本法人から「ザイリンクス、T-Engineフォーラムに参加」という発表が行われた。PLD市場はXilinxとAlteraだけで市場の83%(iSuppli調べ、2004年)を占めており、両巨頭の製品がT-Engine、T-Kernelへの接続が可能になった意味は非常に大きい。

 もう一度確認したい。T-Engineは開発ボードである。T-Engine、T-Kernelの目的はCPUフリーで専用のシステムをいち早く作り、しかもユーザーが作ったミドルウェアやハードウェアモジュールを自由に使いまわせるように再利用して生産性を向上させることだ。これがT-Engineの基幹の構想であり、ミドルウェアの流通のメカニズムとともにAltera、Xilinxが積極サポートしてくれた意味は大きい。両社のT-Engineフォーラムへの取り組みに感謝するとともに、T-Engineは未来の組込み開発システムの業界標準にまた一歩近づいたことを確信している。

坂村 健