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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.99)

ミュージアムへのucodeの広がり

 ucodeが着実に広がり始めている。東京・上野の国立西洋美術館は2006年4月11日に我々東京大学およびYRPユビキタス・ネットワーキング研究所と共同で、収蔵物1つ1つにucodeを割り振り、効率的な管理を行うことを発表した。

 すべての収蔵物の管理をucodeで行うのはもちろん、これを利用して来館者に対しての情報サービスを始めることになった。ucodeは、世界で同じ番号がない識別子であるので、収蔵物にucodeを付けることにより、国立西洋美術館が所蔵している収蔵物を他の美術館や博物館に貸し出した場合、各博物館内での管理番号では不可能だった一元的管理が可能になる。「今後、国立西洋美術館は、日本だけでなく世界の美術館にucodeの良さを訴えていく」と青柳館長が述べている。もし、これが順調に進めば、あらゆる美術品の一元管理ができるようになるかもしれない。収蔵場所や所有者が移動しても食品トレーサビリティと同じようにどういう経路で移動したのかがわかり、またオリジナルな情報をモノに付けて運ぶことができるようになるなど、大きな可能性を持つようになる。また国立西洋美術館では収蔵物だけでなく場所にもucodeを付けようとしている。これは私たちが自律移動支援プロジェクトで進めているものとまったく同じものであるが、場所にも付けることにより、モノと場所から来館者サービスが的確にできるようになった。

 デモンストレーション実験では、国立西洋美術館の中庭に置いてあるロダンの3作品「地獄の門」「考える人」「カレーの市民」に関してucodeを読み取ると、ユビキタス・コミュニケータに情報が表示される。動画情報も含めて館長が自ら説明したり、NHKアーカイブスにあるデータや国立西洋美術館の持つ豊富な資料をうまく利用することによって、あるときは静止画、あるときは動画を用いて、作品に関する知識のレベルによって、状況を認識して、的確な情報を利用者に与えることができるようになっている。これは、ゴールデンウィーク中に一部試験的に公開され来館者に好評だった。

 さらに場所のucodeを元にどの作品を見たかをユビキタス・コミュニケータが記録しておいて、家に帰ると来館者専用のマイホームページという形で、見たところと見ていないところを別にメモをとらずとも再現することができるようになる。かなり美術館の利用方法が変わってくるのではないだろうか。

 私はユビキタス・コンピューティングの研究に力を入れる前にデジタルミュージアムの研究をやっていたので、ここで、ユビキタス・ミュージアムという形で活かすことができ、デジタルミュージアムで得られた知見も加味され、知識に関する情報をいつでもどこでも場所や状況に応じて的確に出すことができるようになった。さらに完成度が高まっているという感想もいただくほど好評でうれしかった。

 今後、国立西洋美術館はucodeを来年度をメドに室内の展示にも展開させ、すべての収蔵物にucodeを付ける作業は今年から始める。こういう試みの広がりとともに、美術館や博物館でucodeが広がり、モノや場所を区別するためのucodeという世界に2つとないユニークな識別子が広がっていくことを願っている。すべてのモノにucodeを付ける大型の事例が増えていき、着実に世界に広がり始めた。

坂村 健